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配線

 遺作の用意ならある。


 6月式日、異例のログイン。
 東京の待合室の四隅に態とらしく置かれた観賞用(仮定)桜の瘡蓋も漸くと剥離し、その箱の底辺あるいは底面からは夥しい量のドクダミが生々と吹き出している。世間では、初夏らしい。完璧な休日らしい休日は平日、臍の緒を手繰り寄せるように新宿(断定)へ向かう。この都会的村落にはまるで正しさがない。 だから、好きになりました。
 
 「そしてさーん。そして、3。どうぞ中へお入り下さい。」


 さて、唯一屋上(山頂)へと通ずる南南西の木戸を蹴破ると、正面には卑猥な形状をした新品のビルが勃っていた。失敬、建っていた。内耳あるいは天井からは最新のJ-POPが刹那的に(正に初夏のようだ!)垂れしずるっていて、哀愁すら感じられたぜ。 ベイベ。 


 【最新J-POPをおかずに泥団子6個半はいける×2=結局13個】


 微熱視線を床(裾野)に落とすと、“聴き様聴き真似”で熱唱する乳母車上のアリアをどうにか嗜める若手の母親はやはり疲弊顔で、その舞台(=現在の日本武道館)の上手に岩盤のように眠るベテランハッピーヒッピーの顔面は、至極安らかに見えた。因みに、その新宿路上菩薩“フローシャ”の背に丁寧に敷かれた〈ミルフィーユ新聞〉の見出しには疾うにくすんでいたが、檸檬、確かに『臓器移植法改正案』の活字が見て取れた。
 
 【遺作≒臓器】  A.臓器の用意ならある。


 だから、私は生きる。ようにしている。


 《割愛+中略》

 
 「トイレットペーパーのシングルとダブルの相違に酷似しているが、非なる。」

 突如、路地の裏の裏に現れたドラミちゃん似の黄猫(正体はマツモトキヨシ袋だ!)の第一声に、デジタル時計を見たら丁度9時11分だった時のような気分になった。


                      9:11


 帰りはPASMOを使わずに、切符を買って土に還った。最早、懐かしい。

  
 [無音楽の私生活 in 超電磁嗅覚的保存媒体 in BPM =2009] 


 7月7日、全員に同量の夜間が配られた。願うは、織姫と彦星の再会のみでした。

 毒ガムまみれのドミソシレファラン♪で真夜中に眼を覚ます雑草枕も珍しくはない。そんな時は大抵、仄白い人工灯に呑まれちまった鉄格子の内側つまりは台所で、浴槽一杯の甘ったるい麦茶(夏季限定)を喰らいながら、近所のスーパーマーケットで万能ネギと間違うて買った線香花火(夏季限定)をあなたの冠に挿頭し、流し台がスパークしちょる、壮絶に素敵だ。但し「うるしゃいぞ、小生」と叱咤叱咤叱咤して、また寝てやるのであります。
 
 [ニュース速報]たった今脳天で初蝉が羽化しました、私の今夏は残り__日です。
 
 あえて黒で書こう。 


 生まれながら冤罪de死刑囚=それは、とんだ誤解です=それでも“自殺”が極めて有効な手段であることを教えてくれたのは、正常過ぎる教育でした=(例)素揚げしたら美味しそうな茄子→○正解、巨大ゴキブリの断末魔風な茄子→×不正解、では余りにナンセンスだ=教育を受けたくても受けられない国の子供達を引合に出すのは、それ以上にナンセンスだ=この思想をここで終止しては厄介ではある=さぁ思慮する=小野十三郎『拒絶の木』とは異種である=冷蔵庫の鶏卵専用ホルダーには賞味期限切れの泥団子が3個ある=まだ、〔嗅ぐ〕いける=有りとあらゆる“情”を薄れさせておく必要がある=7月12日、投票用紙には“おめでとう”と書きました=逃げ遅れた蝶は優しい目をしていた=※ギターは歯や足や顔ましてや心でもなく、両手で弾く弦楽器です=くだらない最終話の回避術は、ふたば幼稚園のいちご組で履修済みのはずだよ=凄惨な事件や核ミサイル等のつまらない力に殺されそうになったら早く逃げて=花壇の横の空き地には、一面の花束 =「生まれましたよ、元気な男の子です。」=大丈夫、君は絶対に負けない=ただ、独り以上であれ。=1人異常であれ。=つづく


 自身の一連の作業を自ら『音楽』と呼称するには相当の躊躇いがあるが、あなたに触れられている瞬間だけが辛うじて私を私として扱い、似非でも人畜生にしてくれた気がしてなりませんでした。ありがとうございました。そして、如何なる時もあなたには優しく抱き締められていましたね。その穏やかな体温を、柔らかな銀膜を、形容を必要としない愛を、生まれ変わった今回も鮮明に覚えております。次回も、どうかあなたに会わせてほしい。
  
 だから、私はあなたを口実にして人と会ったり、話をしたり、演奏をしたり、LIVEをしたり、聴いて頂いたり、たまには頭を撫でて貰ったりして、どうにか思い留まっていたのだろうか?


 違う!断じて違う!! 



 私が歌うのは、【あなたの悲しみを愛(かな)しみたい】からだ。


 だから、あなたを生きる。ようにしてやる。


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 『8年越しの桜』


 吐き気がするほど美しかった。
 空白になった本棚を埋めるように飾っていた家族写真の隣に、とりあえず置いてみる。


 ひどくいい。
 
 あと数分もすれば、この角部屋の外れで始発電車が粛々と動き出す。その動作に釣られて爛々と歌い出してしまいそうなこの気持ちをどうにか殺して、私は慣れた手際で仕事に出掛ける準備を黙々と進めることだろう。


 あなたの新曲を、小音量で聴きながら。